防災教育に関する研究

Ⅰ部
研究の概要:社会教育における防災教育のグローバル展開
研究の目的
研究計画と方法
メンバー一覧
5年間の研究成果と今後の研究課題
Ⅱ部
教育専門職養成・研修における防災教育プログラムの開発とその国際的展開
1.研究の概要
2.本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
3.本研究の目的および学術的独自性と創造性
4.2021年度(1年目)
5.2022年度(2年目)
6.2023年度(3年目・最終年)
7.研究協力者

*本研究は、日本学術振興会科学研究費補助( 基盤研究(A) 2015-2019)を受けて行っています。

教育専門職養成・研修における防災教育プログラムの開発とその国際的展開

研究の概要

大規模な自然災害が頻発するなか、学校や地域における防災教育・学習の展開がますます重要となっているが、それらを支える小中高等学校等の教員や公民館・教育委員会に配置される社会教育主事(社会教育士)など教育専門職員の養成や研修における防災教育プログラムの位置づけは弱く、必ずしも質の高い養成・研修が行われているとは言い難い。そこで、本研究は、教育専門職員の養成・研修における防災教育のあり方を検討し、被災地訪問学習や地域防災活動への参加など新しい視点からの質の高い防災教育プログラムを研究開発して、防災教育の発展に寄与しようとするものである。また、こうした教育専門職員の養成・研修における防災教育は、日本国内だけではなく海外における防災の取り組みでも課題となっており、本研究の成果を国際的に共有・展開するために、ニュージーランドの防災教育関係者との共同研究を通じて、国際的な防災教育研究・実践交流ネットワークの創出に努める。

本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」

災害時に、教員や社会教育主事などの教育専門職員が高い防災意識と防災に関する専門的な知識・スキルを身につけているか否かが、子どもや地域住民の生存を左右することが、東日本大震災での経験を教訓とする調査・研究で明らかとなった。沿岸部に位置する学校でありながら津波被害に対する備えができていなかったために、74名もの子どもの命が奪われた宮城県石巻市大川小学校の悲劇は、教員や教育委員会の不適切な対応によるものであったことが、裁判(2019年10月最高裁確定)でも明らかになっている。一方で、岩手県大船渡市赤崎地区では、公民館長をはじめとする社会教育職員や赤崎小中学校教員および地域住民の日頃からの丁寧な訓練・学習と相互の連携が、高さ10メートルの大津波の被害から、ほとんどの住民の生命を守ったことが学術調査と住民による記録誌づくりの中で示されている。にもかかわらず、大学における教職課程・社会教育主事養成課程や市町村教育委員会による職員研修など、教育専門職員の養成や現職の研修においては、東北や九州(熊本)など被災を経験した地域や南海トラフ地震の想定地域を除くと、依然として防災教育の位置づけは弱く、その内容も災害の特性や地域性にマッチした内容となっていないのが実情で、関連する研究も大学の教員養成課程に関して一部で行われるにとどまっている。地域住民の防災に大きな役割を果たすことが期待されている公民館職員や社会教育主事(社会教育士)など、社会教育職員の養成・研修については、防災教育はほとんど位置づけられていないのが実情で、研究も進んでいない。このような状況が続けば、東日本大震災で得た教訓を活かすことなく、再び多くの犠牲者を生む可能性がある。

本研究の目的および学術的独自性と創造性

そこで、本研究は、首都直下型地震や南海トラフ地震、火山噴火や地球温暖化による豪雨など想定される大規模災害に向けた防災の取り組みにおいて、学校や地域で中核的な役割を果たすこととなる教育専門職員の養成・研修における防災教育プログラムの開発を行い、その成果をすみやかに全国の大学や地方自治体教育委員会に普及することを目指す。 また、教育専門職員が防災に関する意識を高め、専門的知識やスキルを身につけることは 日本国内だけではなく、海外でも課題となっている。歴史的にみると災害が多発する地域ではあっても世代を超えて経験や知識が継承されずに、防災に対する意識が低くなっているところが少なくない。こうした地域でも、教育専門職員の養成・研修を通じて、災害に対する意識を高め、知識やスキルを身につけることが極めて重要となっている。学術的視点から国際的にも必要とされる本研究の成果を海外に発信することも本研究の目的として位置づける。教育専門職員の養成・研修における防災教育の研究は、従来、大学の教員養成学部におけ学校安全研究の一環として行われてきているが、宮城教育大学の震災遺構訪問等を活用した実践的な防災教育プログラム以外は、座学や図上訓練等のスキル習得のプログラムとなっており、大学や居住地での防災活動に参加するなどの主体的・実践的な内容を伴うものは少ない。 本研究のオリジナリティーは、従来の教育専門職養成・研修における基礎研究をベースに、被災地訪問や地域づくりの実践などを伴う、新たな防災教育プログラムの研究開発を行い、教育専門職員の防災実践力を高める研究を行う点にある。 被災地訪問による学習効果は、東日本大震災に関わる研究において、被災地以外の一般市 民や子どもたちの防災に対する意識・態度変容に大きく作用していることが明らかとなっており、被災が想定される自治体の学校教員や社会教育職員の被災地訪問も期待されている。とりわけ、被災後10年近くが経過する中で、震災遺構の整備や震災祈念館の竣工など、防災学習を行いやすい環境が整い、新たな段階に入りつつあることから、これらの施設を利用した新たな学習実践が求められている。教育専門職員養成・研修における地域づくりの実践とは、学校や職場での実践の前提として、各人の居住する地域での防災のまちづくりへの参加と実践を通じて、防災実践力を高める手法である。これまでの教育専門職員養成研究には見られない、新たな視点である。そのうえで、海外の教育専門職員養成・研修関係者との共同実践・研究を通じて、国際的な養成・研修の枠組みと内容を構築しようとする点も、他には見られない視点である。すでに、東日本大震災以降、日本政府や国際機関により海外から専門家を被災地に招いて学習・研修の機会を提供する多くの研修プログラムが実施されており、一定の実践の蓄積があるが、教育分野においては必ずしも進んでいない。

2021年度(1年目)

初年度は主に教育専門職員の養成・研修の実態調査を行う。学校教育について、すでに教員養成学部を中心にプログラムの調査や研究開発が行われているが、2019年の新課程のコアカリキュラムに学校安全の一環として学校防災が位置づけられた以降の実施状況について、事例研究を中心に行う。社会教育についても、2020年4月から実施された社会教育主事養成(社会教育士)の新課程において、防災教育プログラムがどのように位置づけられているか、社会教育主事を養成する全国の大学の実態を調査する。調査対象と方法は以下の通りである。① 学校教育 養成:教員養成系大学と総合大学、両校の教員養成課程での防災教育の位置づけと内容・ カリキュラムに関する調査。また、教員免許更新講習において、防災がどのように取り組まれているかを調べる。研修:地方自治体教育委員会 事例:北海道と首都圏の各1校、四国1校。海外:ニュージーランド・タウランガ市内小中高等学校。パパモア小学校ほか。 ② 社会教育職員養成:2020年4月からの社会教育主事養成新課程で防災教育がどのように位置づけられているかを実施大学を中心に調査する。③ 国際共同研究 2021年6月に開催予定の国連防災機関UNDRR主催 Global Platform for Disaster Risk Reductionに参加し、学校教育・成人教育関係者との研究討議を通じて、教育専門職員の養成・研修の実態に関する情報収集と研究実践交流の国際ネットワーク創設を討議する。

2022年度(2年目)

教育専門職員の養成・研修における防災教育プログラムの実験的プログラムを開発し、市町村教育委員会や大学の協力を得て、試行する。養成:東京都立大学ほか、教員養成系、総合大学のいくつかの教員養成課程や教員免許更新講習、社会教育主事養成課程で試行し、評価を行う。 研修:北海道や千葉県、東京都内の学校や地方自治体の協力を得て、試行し、評価する。 海外:ニュージーランド北島東部の学校教職員、成人教育関係者への研修の施行。被災地 訪問学習の一環として日本へ2名を招聘。

2023年度(3年目・最終年)

2022年度に試行された防災教育プログラムの検証と評価を行い、その研究成果を国内外の学会で発表するとともに、同プログラムが継続的に実施・評価・見直しが行われるような仕組みづくりについて関係者と研究討議を行う。国際的には、2023年5月・6月に隔年開催される国連防災機関主催 Global Platform for Disaster Risk Reduction において研究成果を発表し、国際的な研究実践交流ネットワーク活動の充実のための方策を検討する。

研究協力者

宮下与兵衛(東京都立大学・大学教育センター・特任教授)、竹浪隆良(同)、風巻浩 (同)、柏崎正明(元大船渡小学校校長/大船渡市教育委員)、佐藤敏郎(小さな命の意味 を考える会/元宮城県中学校教諭)、吉田忠雄(元大船渡市赤崎公民館館長)、島崎直美 (アシリチェプノミ実行委員会事務局長、アイヌ民族)、Sandy Morrison(ワイカト大学、ニュージーランド)、Mark Ivamy(プレンティ湾郡防災担当官、NZ)、Wayne Whitaker(パ パモア小学校校長、NZ)、Daren King(ニュージーランド国立水大気圏研究所・研究員。